大判例

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東京高等裁判所 昭和32年(う)1498号 判決

被告人 木下猛

〔抄 録〕

原判決が被告人に対する本件窃盗被告事件につき、被告人を懲役六月に処し未決勾留日数中三〇日を本刑に算入していることは、検察官所論のとおりである。そして記録竝びに当審において検察官提出にかかる水戸拘置支所長竹尾末吉作成の刑執行指揮書謄本及び被告人の当公廷における供述によれば、被告人は昭和三二年五月五日本件窃盗の事実を被疑事実として刑事訴訟法第六〇条第一項第二号及び第三号所定の事由を理由とする勾留状の執行を受け、同日から原判決言渡の日である同年六月二〇日まで引続き水戸拘置支所に勾留されていたものであるが、これより先、被告人は昭和三一年六月九日日立簡易裁判所において窃盗未遂罪により懲役八月に処する旨の判決の言渡を受け、その判決は同年一一月二二日確定したので、被告人は未決勾留中である昭和三二年五月一六日から水戸拘置支所において右確定刑の執行を受け、引続き右原判決言渡の日まで同所において受刑中であつたことを認めることができる。従つて被告人が原判決言渡の日までの間に右勾留状のみによつて水戸拘置支所に拘禁されていた日数は、同年五月五日から同年五月一五日までの一一日に過ぎないこと明白である。尤も記録中に編綴されている水戸地方検察庁検察官検事武並公良の原裁判所宛昭和三二年五月一六日附刑執行指揮通知書中の刑の始期欄には昭和三二年五月一日と記載されていることが認められるが、右通知書中の文言中には被告人木下猛に対し昭和三二年五月一六日左記刑の執行を指揮したから通知するとの旨の記載があり、刑執行を指揮した日が同日であることを明記していることが認められるので、右通知書中の刑の始期欄の昭和三二年五月一日なる記載は日附を誤記したものであることを知るに難くないのみならず、当審において検察官の提出した前記刑執行指揮書謄本及び被告人の当公廷における供述によれば被告人は昭和三二年五月一六日から水戸拘置支所において前記確定刑の執行を受けたものであることを認めることができるのである。このように未決勾留中の被告人に対し別件の確定した懲役刑の執行をすることは、もとより未決勾留と刑の執行とはその本質を異にするものであるとはいえ、未決勾留中の故にこれを許さないものとする法令上の規定はなく、又確定した懲役刑を執行するときは未決勾留の執行を停止すべきものとする法令上の規定もないのであるから、この場合には一面被告事件について未決勾留が存すると同時に、他面確定した別件の刑の執行が存するものとしなければならないのであるが、刑法第二一条の規定する未決勾留日数の本刑通算は、未決勾留をもつて本刑の執行に替える趣旨から認められたものであるから、若し右のように未決勾留と確定した懲役刑の執行が競合している場合にこの間の未決勾留日数を本刑に通算することが許されるものとすれば、単一の未決勾留を二重に確定した懲役刑の執行に替えることとなり、明らかに刑法第二一条の趣旨に反した措置となるのである。されば、判決において右両者競合している間の未決勾留日数を本刑に算入することは、刑法第二一条に違反した違法があるものといわねばならない。しからば原判決が本件につき被告人を懲役六月に処し未決勾留日数中三〇日を本刑に算入しているのは、被告人に対する勾留状のみによる拘禁日数である一一日を超え、確定刑の執行と競合している間の未決勾留をも本刑に算入していることとなるのであるから、刑法第二一条に違反したものであり、原判決のこの法令適用の誤は判決に影響を及ぼすこと明らかである。それ故検察官の論旨は理由がある。

(加納 吉田作 山岸)

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